1/28/2018

[biz] 無法と無謀の必然、相次ぐ暗号通貨取引所の破滅

Mt.Goxの再来、になるのでしょうか。暗号(仮想)通貨取引所大手Coincheckにおける大規模な通貨窃取、からの取引停止の件です。丁度派手にTVCM等を打っていたところが即、という事で、CMにコメディアンを起用していた事と相まって、出来の悪いコントを見せられたような微妙な気分にさせられてしまいました。被害を受けた人は実質的に詐欺に遭ったも同然につき全く笑えないでしょうけど、多分に博打ですったとでも思って諦めるしかないんじゃないでしょうか。ご愁傷さまです。

しかし、まだ本件の全容は殆ど明らかになっていません。そもそも同取引所の運営実体はあまり公に明かされておらず、そのため不明な事だらけだし、おそらくは杜撰なその実態を公表する事を渋っているのだろう同社が説明不足な事もあって、様々な憶測が飛び交い、事態はますます混乱を深める酷い有り様です。

とはいえ、現時点で明らかになっている事実、すなわち同社が保管していた暗号通貨XEM(NEM)のほぼ全てである約5億2600万単位が同取引所から失われた事、また他の通貨についても同様に失われた可能性がある事、そしてXEM以外の全ての暗号通貨や日本円も含め、全ての資産についてユーザが引き出せなくなっている事等からだけでも、既にMt.Goxの際の被害額・規模を超える大惨事に至っている事は明らかであると言えるでしょう。

(追記: XEM以外の通貨につき、XRP(Ripple)約1億100万も消失したとの事です。)

本件の責任が専らCoincheck社に帰するものである事は疑いようがありません。では、今後追及されるだろうその内容はどのようなものでしょうか。

民事的にはどうか。まず前提として、取引所における暗号通貨は、法的には一般に所有者たるユーザーからの寄託(もしくは信託)物に準ずるものと解されているようです。そうであれば、今回失われたものも含め、Coindesk社が管理していた暗号通貨の所有権はユーザーにあり、同社はそれを預かり、ユーザの指示に従う形で取引を代行していたに過ぎない事になります。

そして、受寄者たる同社には善管注意義務があるところ、同社がその暗号通貨の管理にあたり、一般に標準とされる程度の盗難防止措置を取っていなかった事は既に明らかであり、その点で注意義務違反が認められます。従って、ユーザには、被った被害につき同社に対する損害賠償請求権が生じています。

また、寄託者たるユーザは、寄託物(この場合は預かっている暗号通貨)につき返還請求権を有しており、任意に返還を請求出来、同社はそれに応じる義務があります。しかし同社はユーザの返還請求に応じておらず、その点でも違法性が認められます。当然ながら返せない、では済みません。返還不能になった通貨等につき、相当額の賠償をする義務が生じます。また、返還が妨げられた事で生じた機会損失等についての損害賠償請求権も生じ得ます。もっとも、その返還停止にシステムの管理上の必要性があり、一時的な、合理性の認められる範囲に留まる限り、ただちに生じているとは言えないかもしれませんけれども。

それらのもろもろの請求権を合わせると、同社の負っている債務は、少なくとも600億円を超え、XRP以外の通貨への波及の有無とその程度や規模次第でさらに膨れ上がる可能性もある巨大なものになっているわけです。同社がそれを支払えるか否かは不明ですが、社員数は100人に満たず、主要な出資元がベンチャーキャピタルであるという同社にその規模の保証金や資本金があるとは考えづらく、その支払いは極めて難しいと考えるべきでしょう。被害を被った方々には酷な話ではありますが。

そのような、後始末もままならない状況では、代表が会見で語ったように、事業を継続する事は殆ど不可能でしょう。何らかの方法で失われた通貨を取り戻す事に奇跡的に成功するのでもない限り、破綻は避けられないものと思われます。破綻した後、再生するのか、清算に追い込まれるのかはわかりませんが、只でさえシステムの十分な整備が出来ない、と泣きを入れているような状態ですし、再生しようとしても金融庁の登録審査に通らない可能性も高く、事実上は殆ど絶望的と言っていい状況にあるのではないでしょうか。

刑事的にはどうでしょうか。現時点で刑事的に明確に違法と言える事実は無いようです。CM等で一般の顧客を広く誘引し始めた矢先の話のため、取り込み詐欺を疑う向きもありますが、流石にその可能性は低いでしょう。ただ、前例として取り上げられているMt.Goxの件では、代表者が巨額の資金を着服していた事が後になって明らかとなり、代表者は逮捕されるに至りました。第3者に監視も管理もされておらず、やろうと思えばいくらでも内部から同様の犯罪を行う事は容易であっただろうCoindeskに同様の嫌疑がかかるのも致し方のないだろうところ、今後は程度は兎も角としてある程度司法の捜査対象となる事もあるでしょう。逆に言えば、それまでは刑事的に責任を追及される事はないものと思われるわけです。

同社は公の管理も監視もされていない私企業であり、その取引所にも一般にこの種の、巨額の金融財産を預かり、その取引を仲介する場として当然に備えられるべき、その資産を管理・保全する仕組みもなく、また今回のような被害が発生した際に備えた引当金等も(おそらくは)皆無に等しかったらしい、という、およそあり得べからざる運営実体が明らかになってきています。当然、被害に遭った顧客への補償など期待出来よう筈もないし、それ以前に残った(はずの)通貨等の資産を払い戻す事もままならない有り様は、欲をかいた顧客の自己責任、で片付けるにはいささか常軌を逸し過ぎているように思われるところです。

無責任も甚だしく、いっそ無謀と言ってもいいだろうその信じ難い運営実態に愕然とさせられると共に、そもそも、何故そのような業者が公然と巨大な取引所を運営する事が許されているのか、疑問を抱かずにはいられません。Mt.Goxの件をはじめ、取引所の杜撰な運営に起因して顧客の資産が失われる例は枚挙に暇がない程であり、その対策の必要性は十分に認識されている筈なのですが。

思い当たる要因がないわけではありません。元々、新規の技術に基づく新種の対象を取引する場であるために、管理・規制のためのノウハウもなく、法制も追いついていない、それもおそらく要因に含まれているものと思われます。しかし、暗号通貨は新規の資産であると言っても、その性質は既存の、電子的に取引される金融資産のそれと類似しており、一般的な、実際の管理・運用におけるノウハウが無いわけではありません。にも関わらずそれらを全く踏まえずに、このような杜撰な運営が横行する、というのは、ノウハウ不足や法制の不備以外に主たる要因があるものと言うべきでしょう。

すなわち、何の規制もない事をいい事に取引所の開設・運営に乗り出した企業、またその人員の殆どが、金融関連の取引について、とりわけその法制面についての素人同然であり、そのため一定の法関連の知識があれば当然に認識するだろうリスクに鈍感で、それらへの手当を怠り、あるいは意図的に放置しさえする事の方が主たる原因であるように見えます。そうでなければ、どうしてかように無反省に同じ過ちを繰り返す事が出来るというのでしょうか。

本来言うまでもない事ですが、企業とその人員には、その営む事業の規模や社会における位置づけ、取引の内容等に応じて、当然に果たすべき責任があるわけです。その責任は、ベンチャーだから、若いから、人出が足りないから、等と言って放り出す事が許されるものではないし、本件取引所のような巨大な利害が動き、その規模に応じた重い責任を伴う事業であればなおさらです。分不相応な事業に手を出した愚かさを嘆くのは勝手ですが、自分たちの失敗によって他者に生じさせた被害の責任は当然取らなければなりません。その結果が、破綻すなわち企業としての死であったとしても、甘受する他ないでしょう。

その責任を軽んじ、あるいはそもそもその負うべき責任も、そのために必要な知識やリソースも認識せず、ただ無謀のままに事業を起こしたというのであれば、その失敗と破綻は必然の結果であったものと言う他ないわけです。

しかし、関連する界隈では、今回の件があってなお、反省のち修正しようという向きが殆ど見られないのは流石に。。。馬鹿は死んでも治らない、というか、救い難いにも程があると思うのです。暗号通貨と、その他の資産との相関が低く、通貨関連で破綻があっても経済にはあまり影響しない点は救いと言うべきなのか、だから歯止めがかからないのだと呆れるべきなのか。まあ、被害を蒙りたくなければ関わらないでおけばいいだけ、その他のバブル等よりはマシなのかもしれませんね。他人事としても見るに耐えない、というのはもうどうしようもないとして。

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