8/01/2017

[pol] もはや理解不能、混沌極まる米政府人事

いや、何がどうなっているのやら、もうわけわかんないですね。

無論、Donald Trumpの合衆国大統領としてする振る舞いの殆どが支離滅裂かつわけのわからないものであり、国内外の大多数からの非難を免れないものでもあった事は今更言うまでもないところなのです。

しかし、こと人事に関して、とりわけMichael Flynnに始まったところの、選挙時からのRussiaと密接な接触があり、情報操作や選挙システムへの介入が成されたとの疑惑通称Russiagateの捜査に絡んで相次いだこれまでの更迭については、その是非は兎も角として理由が見えただけまだ理解し得るものではありました。対してここ最近のそれは、最早その理由を推し量る事すら困難なわけで。

その原因というか直接の要因には、Trump政権のスポークスマンであったSean Spicerが最近になって兼務していた広報責任者のポジションの後任として、またしてもGoldman Sachs出身のヘッジファンドマネージャーであり、つまるところ政治や広報については素人に過ぎないAnthony Scaramucciが据えられた事にあるのは間違いないでしょう。

しかしこの人事自体が意味不明なのです。Spicerが、Trumpの愚かな振る舞いによって当然に受けるべき非難に晒されながらも、政権のポリシーに忠実に従い、大本営発表をもって対し続けた末に投げ出した事は記憶に新しいところですが、その辞任の理由は、まさにこのScaramucciが広報責任者の職、すなわち形式上の上司として就任した事による、と言われています。兼任していた職務のうち上の方が引き継がれたため、後任であると同時に上司になった、という事です。ややこしい話ですね。

その是非は兎も角として、広報のプロフェッショナルとしてその困難な職責に忠実に対応し続ける事が出来たSpicerと、そもそも政治については金融関連に限定したアドバイザーやリエゾン的な立場での経験しかなく、また頻繁にFox Newsに出演していたとは言っても好き勝手に放言をするだけのコメンテーターとしてであり、広報の職についてまず経験すら乏しい筈のScaramucciと、そのどちらが重要であったかと言えば、Spicerの方であった事は明らかです。何故このような措置をしたのか、まず理解が困難で、大多数の人を困惑させました。

あまつさえ、その後Scaramucciは、同僚であり当然に協力せねばならない筈のReince Priebusはじめ政府の要人複数に対し、職に就くやいなや公然と非難を加え、驚くべき事にこれに応じてわずか数日後にはPriebusは更迭されてしまいます。これも意味不明です。というのも、Priebusの職はChief of staff、すなわち副大統領や国務長官等の主要閣僚級の数人を除く殆どの政権スタッフのトップであり、広報責任者のScaramucciは当然に彼の部下に当たるのにも関わらず、その彼の意向によって上司が更迭された事になるわけです。それに、そもそも同僚・上司の非難をする事は間違っても広報の仕事ではありません。そのような職務ないし権限を与えるというのなら、それこそ最初からPriebusの後任としてScaramucciを当てるべきだったところなのでしょうが、彼の就いた職は間違いなく広報責任者です。全く以って理解し難いところですが、ともかくにもScaramucciには実質的にそれだけの権限が与えられているように見えていたわけです。広報ってなんだろう、と誰しもが思った事でしょう。

しかしさらにわけがわからないのは、その実質的に支配的な権限が与えられていた筈のScaramucci自身が数日後にはあっさり解任されてしまった事です。そしてこの措置は、Priebusの後任としてChiefに就任したJohn F.Kellyの主張が通った結果だとも言われています。前述の通り、Chiefの方が上位に当たるため、本来あり得べき話ではあるのですが、だとしたら、Priebusが更迭されたのはどういう事なのか、逆に理解出来なくなってしまうわけです。そこに常人が理解しうる合理性を見て取る事は出来ません。もっとも、Scaramucciに広報の職責を果たす能力があるとは誰も(おそらくは彼自身も)思わなかったでしょうから、理由はさておき結果としては当然と言うべきなのかもしれませんが。

結局、何故その人事をしたのか、その理由が彼に関する限りわからないのです。そして、その人事権者であり、決定者である筈のTrump自身は、殆ど何も語っていません。彼にしては珍しく、と言うべきか、更迭される者について苛烈な非難を加える事もなく、逆に"彼はいいやつだ"等と意味不明なフォローをしてもいます。この点、最早Trump自身既に実質的に人事を掌握出来ていないのではないか、とする見方もありますが、その真偽は定かではありません。

何もかもが意味不明なまま、通常なら政権の要として実力者が配され、辞任も更迭も滅多な事では起こらない、起こしてはいけない筈のポジションが、まるでアルバイトのシフトの如くすげ替えられていく様は異様という他なく、第三者の立場からでさえそのもたらす機能不全、その影響を想像して冷や汗が出る位ですから、当事者であり、直接の影響を受けるだろう米国民の困惑はさぞかし大きい事でしょう。しかし状況が改善する見込みはありません。少なくともTrumpが大統領であり続ける間は。そもそも、おそらくは本件の原因となっただろうRussiagateの具体的な追求自体、まだ殆ど始まってもいないのです。さて、本件が決着を付けた時、米国は一体何処まで行ってしまっているのでしょうか。

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