5/15/2017

[biz] WDの売却差止請求への東芝の言い分がデタラメ過ぎて

もう駄目なんでしょうか。そう思わざるを得ないのです。

2016年度3Qに続き、期末の決算も監査なしの大本営発表をして破滅へと突き進む東芝、その相変わらずというか、いちいち突っ込むのも面倒になる惨状っぷりにはもはや何をかいわんやですが、その説明会見でまた無理のあるトンデモな主張をしたようで。何かというと、メモリ事業の協業先であるところの米WesternDigital社による東芝メモリ売却に対するクレームへの対応の件です。

本件は、WD社(に吸収合併された旧SanDisk社)が、東芝のメモリ事業の主要拠点である四日市工場の共同運営につき締結した契約中、事業譲渡に際しては同社の同意が必要な旨を定めた条項に基づき、同事業の売却等に同意しないとして、事業の分割及びその譲渡につき共に差し止めを求めているものです。

これに対し、周知の通り遅くとも1年以内にはメモリ事業売却を完了させなければ破綻必至の東芝は、同契約は旧SanDisk社とのもので、WD社は行使出来ないだとか、行使出来るとしても、会社全部が吸収される場合は同意が不要な事から、子会社全部の譲渡には同条項が適用されない、等として拒絶の旨主張しているそうですが。。。そんな馬鹿な、と唖然とさせられたわけです。

法的に見れば東芝の主張に無理があるのは殆ど自明のように思うのですが、一応具体的に解釈してみましょうか。まずWD側の主張の是非について。WD社は旧SanDisk社を吸収合併したのだから、その権利義務共に全てを包括的に承継している事になります。よって、旧SanDisk社との合弁契約が有効である以上、WD社は当該契約に基いて権利を行使する事ができ、東芝はそれに拘束されるところとなります。すなわち、WD社は同条項に基づき譲渡への不同意を有効に主張できる、という事になるわけです。旧SanDisk社のものだからWD社は不可、とする東芝の主張には根拠がありません。というか意味不明です。

次に、分割後の子会社全部の買収の場合は適用対象外とする主張の是非について。今回東芝はメモリ事業を分社化し、その株式(の大部分ないし全部)を譲渡しようとしています。これは、実質的に事業の分割譲渡もしくは吸収分割と同等と言えるだろうものです。そして、それらはいずれも、法的には吸収合併のような会社全部の権利義務の包括的な承継とは解されず、一部の事業の譲渡(売買)にあたるものとされています。すなわち、原則として同条項で同意が必要とされる事業の譲渡につき、その実行にはWD社の同意を要するもの、と言えるでしょう。従って、包括的な譲渡だから同条項で同意が必要とされる譲渡には該当しない、とする東芝の主張はこれも失当となります。

そもそも、前者の主張では吸収合併について包括的な権利義務の承継を否定する一方で、後者の主張においては、明らかにそれより部分的であり限定的な筈の分割譲渡(の全体)について包括的な承継を肯定していたりして、論理の一貫性すらありません。控えめに言っても無茶苦茶です。一体誰がそんなデタラメな主張を作り出したんでしょうか。弁護士等の法的な知識のある者が近くにいるならあり得ない話だと思うんですが、東芝にはそういった専門知識のあるアドバイザーは一人もいない、とかいうことなんでしょうか。まさか、とは思うものの、監査法人との対立の様子からするとあり得ない話ではなく思えるのがまた。何にしろ、戦慄すべき事です。

ともあれ、おそらくはその話の通じなさに呆れ果て、またその経緯の説明すら殆どされない不誠実さに不信を極めただろうWD社は、早々に当事者間の対話による解決を諦め、司法に解決を求めるべく仲裁を申立ててしまいました。仲裁判断の申立てには当事者双方の合意が必要ですから、あらかじめ契約条項に紛争時には仲裁を申し立てる旨が規定されていたという事なんでしょうけれども、この種の条項が実際に行使されるというのは本当に珍しい話です。その珍しさが、今回の東芝のデタラメさ加減をよく表している、とは言えるかもしれません、とそれはともかく。

本件申し立てに伴い、おそらく権利保全のため、売却手続の一時差止等が請求される可能性は低くないでしょう。仮にそれが認められれば、少なくとも判断が下されるまでは売却は出来ず、当然ながら債務超過の解消も出来ない事になります。国際仲裁裁判所の仲裁は一審制で上訴不可につき、それなりに早期に決着するものと予想されますが、それでもこれだけこじれて当事者間の対立も激しく、また規模も大きく複雑な案件が、東芝にとっての文字通りのデッドラインである所の数ヶ月とかで決着するものなのでしょうか。そうでなかった場合、その結果の如何によらず、その前に東芝は即死してしまうわけなのですが。。。まあその辺は今更ですかね。元々あらゆる面で山のように無理がある事は明らかなのだし、そもそも間に合ったところで東芝が勝てる可能性の方が明らかに低いのですし。さてどうなることやら。

(注・追記)

ちなみに、同裁判所における仲裁の過去の例では、スズキがVWを相手取って起こした株式の売却請求の仲裁に関して、申し立てから決着までおよそ4年もの時間がかかっています。もっともこれはVW側が遅滞戦術をとったためとも言われていますから、一般にそれほどの時間がかかるとは言えないのでしょうけれども、それでも数ヶ月で決着すると考えるのは無理がありそうです。

米WD、東芝の半導体売却差し止め請求 再建計画遅れも
米WDが差し止める根拠ない、メモリー売却で東芝社長

[関連記事 [biz law] 監査なしの決算発表という違法行為]