8/13/2016

[biz] わずか1年で終了したインバウンド消費、その甘過ぎた見込みと減損の責任の所在

ラオックスの2016Q2決算が発表されました。大方の予想通りボロボロです。売上は2割超の大幅減で、営業利益はかろうじてプラスではあるものの、純益は赤字に転落しました。直近の国内売上は前年比でほぼ半減というのですから、まさに壊滅的というべき惨状です。

2015年初頭、前々回の春節の時期に俄に発生し、小売業界にバブルを生み出した中国人によるインバウンド需要、通称爆買いは、その原因となっていた中国における個人旅行者の越境に伴う輸入品にかかる優遇税制の変更(通常の輸入と同等の課税賦課開始)を受けて恒久的な意味で終了したものと認識されていたところでした。その消費目的地の代表格であり、象徴的な位置にあった同社の今期の業績、決算は、まさにその状況を直接に証明するものに他ならないわけで、これをもって爆買いと呼ばれた現象、需要の終了が完全に確定したものと言えるでしょう。

結局、本需要は実質的に約1年で終了してしまった事になります。インバウンド需要自体は2015年以前より徐々に増加していたものですが、同社をはじめ、百貨店等の小売各社が本格的に中国人向け需要に適応すべく積極的な投資及び売り場の構成や人員の採用・配置等の施策を採ったのは直近の話です。たった1年でその莫大な投資を回収し得た筈はなく、当然ながらそれらの未回収分は損失に転じるでしょうし、また中国人向けに特化すべく置き換えた物的・人的リソースは国内向け需要に対してはミスマッチを起こして、多分にその需要回復の障害ともなる可能性すらあります。

それらの投資等が中国人以外、すなわちグローバル向けとして一般化を図ったものであったならば、五輪による広範な外国人需要への転用も可能だったのでしょうけれども、今回のそれは、中国人向け、それも電化製品や化粧品等の購買に特化したものであるのだから、そのような流用はおそらく困難であって、大部分の清算が避けられないものと予想されます。つまり、しばらくは各社とも減損を余儀なくされるものと考えざるを得ないわけです。

その兆候は今回のラオックスの決算に既に表れています。営業利益は黒なのに、純益が赤なのがそれですね。為替差損や株式評価損等もありますが、特別損失として固定資産の除却損と店舗整理損が計上されているのはまさにそのもの。既に損切りに動いているその処理の迅速さは評価すべきかもしれませんが、元々ラオックスは国内向けで見れば競争力皆無で、インバウンド消費の恩恵がなければ既に消えていた可能性が高いものと思われるところですから、その損切りをしたところで元の弱小家電チェーンに戻るだけであり、そこに積極的な意味は見出し難いところです。今更エディオン等の家電大手グループへの合流も難しいというか相手方にメリットが無いでしょうし、このまま退場コースとなる可能性も高そうですが、さて。

一方百貨店は今の所そこそこ堅調です。松屋あたりは立地条件的に爆買いの影響が強く、その分損失の幅も大きいようですが、その他はそれ程でもない様子ですね。もっとも、ラオックスより対応が遅くまだ減損処理等に手を付けていないから、というだけの事かもしれませんし、円高がコスト減に寄与してある程度相殺した面もあるでしょうから、影響の有無や程度を判断するには証拠が不十分であり、時期尚早というべきなのかもしれませんけれども。

何にせよ、中国の個人旅行客の購入品に対する優遇税制が終了した以上、それによるインバウンド消費はもはや完全に消滅した事は間違いなく、従ってそれを収益の柱に掲げた向きは揃ってアテが外れた格好になりました。日本政府からして1年前には成長戦略の柱としていた位なのだから、それが瞬時かつ完全に失われた影響が小さいものに留まる筈もありません。中長期向けにした投資はほぼ全てが減損を迫られるし、その結果として当然に政府も含めその甘すぎた見通しの報いも避けられない筈なのですが、誰がどう責任を取るのでしょうか。

これに代わる需要のアテがない現状では単にクビが飛ぶだけに終わるのだから、責任者の悉くがひたすら保身に走りたくなる気持ちも理解できないではありませんが、やはり誰も責任を取らない、では済まない規模の損害を伴う失敗だと思うのです。でなければ立て直し以前に、その前提たる損切り乃至清算もままならないのですから。

しかし、元より爆買い自体がおよそグレーとも言うべき法の抜け道に基づいた経済である以上、中国政府が看過し得ない規模になれば規制が入る事も当然に予想されたところであって、具体的な終了時期の予測は困難であったとしても、少なくともこのような大規模な需要が長続きするはずもないし、成長の余地も見出し難く、長期の投資案件とするにはリスクが大きい、と少し考えれば分かりそうなものだったのですけれども、まさにバブルの様相を呈し、殆ど誰もが止まりませんでした。政府も民間企業も、何度失敗を繰り返そうとも、つくづく目先の事しか考えられないものなのだな、とこの惨状を前にしてため息をつきたくなる次第なのです。

とりわけその音頭を取り、本件が発生した頃には諸手を上げて歓迎し、盛んに投資等の奨励を図った政府は、責任を取って後始末をするどころか何もなかったかのように黙殺し、企業に全ての責任を押し付けてやり過ごそうとしているようで、全く以って話になりません。もっとも、政府自体が本件を含めあらゆる市場で目先の株価上昇等のために手当たり次第にバブルを起こしては崩壊させ、経済を混乱させ続けている張本人なのであって、今更その責を認めるはずもなく、従って反省も修正もありえないだろう事もまた明白であり、分かり切った話なのですけれどもね。