5/11/2016

[law] Panama papersが晒す形式的合法性の詭弁とその破綻

このところ世界中を悪い意味で賑わせている、Tax Havenの大手法律事務所Mossack Fonsecaから流出した利用企業・個人等のリスト、通称パナマ文書ですけれども、ICIJにより公開されたデータベースファイル一式をダウンロードして眺めてみました。

ダウンロードした圧縮ファイル(offshoreleaks_data-csv.zip or data-csv.zip)を解凍すると、下記の通り4つのデータファイルと、その要素間の関係情報のファイルの合計5つのcsvファイルが入っています。

 ・Addresses.csv : 住所一覧
 ・Entities.csv : 法人一覧
 ・Intermediaries.csv : 仲介者一覧
 ・Officers.csv : 役員一覧
 ・all_edges.csv : 上記各情報間の関係情報

どれもテキストファイルなので、取扱はとても簡単です。個々のデータも余計な情報は皆無の極めてシンプルなものです。ただ、レコード数が半端ないので一々眺めるのも大変。それでも、ICIJのHPで提供されている検索用インタフェースから一つずつ検索するよりは、テキストファイル中を行きつ戻りつ追跡する方がまだやりやすいとは言えるでしょうか。

国内でほとんど一人だけ個人名が取り沙汰されている楽天の三木谷浩史氏を例に取ると、まずOfficers.csvに下記のような形式でレコードが入っています。

 Hiroshi Mikitani,FF94FFD781684756215F927DDB8610C3,The Panama Papers data is current through 2015,SGP,Singapore,12128826,Panama Papers

なお各要素は名前,ICIJの管理番号,有効期限,国ID,国名,ノードID,ソース名となっています。

ここからは住所がシンガポールという事位しかわかりませんが、その他の情報はノードIDから追跡可能になっています。all_edges.csvで12128826を検索すると、

 12128826,officer_of,10068469
 12128826,registered_address,14053224

という2件のレコードが見つかります。 これから、役員を務めている会社と住所のIDがそれぞれ10068469と14053224であるとわかります。で、それぞれEntities.csvとAddresses.csvとから検索すれば、法人と住所の情報が分かるわけです。住所の詳細は流石に個人情報でもあるのでここには載せませんが、法人は下記の通り、香港に本店を持つTradenet investments ltd.という金融系の企業である事がわかります。なお管轄は英領バージン諸島ですね。

 TRADENET INVESTMENTS LTD.,TRADENET INVESTMENTS LTD.,,BVI,British Virgin Islands,,FINANCIAL & CORPORATE SERVICES LTD. SUITES 1904-6; 19/F.; DOMINION CENTRE; 4\
3-59 QUEEN'S ROAD EAST; WANCHAI; HONG KONG WANCHAI HONG KONG,515718,10-NOV-1995,12-JUN-2013,30-APR-2014,,Changed agent,Mossack Fonseca,165794,HKG,Hong Kong,,\
The Panama Papers data is current through 2015,10068469,Panama Papers

国籍は日本なのに住所がシンガポールで会社は香港、という辺り、如何にもと思わざるを得ませんが、その辺の疑惑の真偽、程度は兎も角、どれもこれもそんな感じで中々に香ばしい雰囲気が漂っている事だけは間違いありません。

実際、周知の通り、殆どの法人が現地に営業の実体のない、いわゆるペーパーカンパニーである事はほぼ疑いようのないところでしょう。であれば広く世間から疑いの目を向けられるのも当然の結果と言えるし、或いは各国当局の捜査対象になり、実際に資産・利益隠しや資金洗浄等の違法行為が確認されれば犯罪として摘発されてしまうだろうケースは少なくないものと考えられます。当事者たる役員や法人が揃って戦々恐々とするのもむべなるかな。

名前の載っていた国内大手各社は、判を押したように適法に処理している、とのコメントを出しています。無論形式上は適法な形にはしているのでしょうけれども、しかし今後の捜査で問われるのは形式面ではなく実態面であり、建前上は適法に見えても各法人の営業・活動の実体が伴っていなければアウトになるのです。実体を認められるためには、最低限HQの機能を有する事務所を継続的に保有し、代表権ある役員の常駐も必要だろうところ、まあそんなわけないよね、と誰もが思う時点でもはや建前は通用しないのであって、そこに具体的な実態の説明を伴わず、適法と主張をしてもそれは無意味なわけです。

各国間の法制の齟齬による損失の回避、すなわち二重課税の防止だったり、単なる脱税や資金洗浄とは異なるフェアな事由による場合も多々あるんでしょうけれども、それは企業や個人の側の都合でしかなく、現地での実体を伴わない以上、各国の法に照らせばまず正当な事由とは言えないだろうわけで。一部で、資本誘致の為にはある程度許容すべきものとして正当化ないし擁護を図る論説もあるようですが、それは詭弁と言う他ないように思います。

勿論、当局としてもそこまで捜査するには相当な労力が必要ですから普通ならわざわざ突っ込んだりはしません。というかやりたくても出来ません。が、本件では具体的な、既に整理もされた証拠が提供された事によってそのコストは大幅に縮小しました。むしろ、社会的に広く疑惑が共有されもした以上、もはや何らの捜査もしないというわけにはいかないでしょう。摘発すれば膨大な税収を回収し得る可能性がある事、また今後の税収増も見込めるという事情もありますから、労力を使いながらも当局が突っ込んで行く可能性は低くないと見て良いのではないでしょうか。といって、政府側に後ろ暗い人達が沢山いたりすると、逆に隠蔽に走る可能性は高くなってしまうのですけれども、さて。逆に、中国よろしくもみ消しに走るか否かによって、各国がどの程度汚染されているのかを測る事も可能でしょうから、それはそれで興味深いだろう実態を明るみに出して把握すると共に、可能ならば是正を図る良い機会とも言えるかもしれません。

ともあれ、実際に捜査がなされるとすれば、果たして、そこで明らかになる租税回避の実態はどのようなものなのか。想像の通り、大国の国家予算に迫るようなセンセーショナルなものなのか、実はそこまででもなかったりするのか。いずれにせよ、今後の捜査の行方には、非常に大きな興味をもって注目せざるを得ないのです。どう転んでも、租税回避地の法人絡みの会計処理に規制が強まる事は確実でしょうけれども。

How to download this database