12/12/2015

[pol] 傲慢で愚かなTrumpが大統領候補筆頭という現実

米国はどうなってしまうのでしょう。いや、次期大統領選の候補者レースの件なのですけれども。Donald Trumpがついに行ってはいけない所まで行ってしまったっぽいんですが、しかし完全終了したかというと対抗馬がまだ見当たらず先行き不透明、という。全く以ってクレイジーです。

話の前提として、議会の支配権を失い、また国民からの支持も無く、既に死に体の現政権の有り様を見れば、その後継と見做されるだろう民主党の候補にはバックグラウンドにおける著しい不利があり、例年のように双方の候補者個人の評価が同程度であれば共和党候補が勝利するだろう事は疑いようの無いところなのであります。それでも個人に突出した人気があれば話は別なのでしょうが、現時点での有力候補たるHillary ClintonやBernie Sandersらには元々さほど支持が期待されるわけでもなく、それどころかおそらく筆頭だろうHillaryは体力や不祥事を巡って始まる前から色々と危ぶまれる始末。加えてオバマ大統領の後援もマイナスになりかねない、とあっては期待しろという方が無理があるでしょう。

従って、共和党の候補者選定が事実上の大統領選と位置づけられる結果、民主党の候補者数人に対し共和党では各派色物取り混ぜて20人以上の候補者が乱立し、毎日のように各候補者の発言が民主党の候補者はおろか現職の大統領すらも押しのけて各種報道を占拠している状態なわけです。来年以降の米国の政策方針に直結するのだから関心が寄せられるのは当然だし、各候補者は宣伝になるから自重する筈もない、とあって全く歯止めがかからないのは当然と言えば当然の話。とはいえ、現時点では何の決定権も無いのだから迷惑になる向きも多かろうと思うし、第三者的には違和感を感じるとともに、余計な争いの種になっているのを見るにつけ鬱陶しくも感じられる所です。が、おそらくは仕方ない事なのでしょう。

と、そこまではいいのです。問題は、その共和党候補者、信じ難い事にその筆頭であり、従って現時点で次期大統領の可能性が最も高いとされるDonald Trumpの言動が明らかに常軌を逸しており、公的立場に無い者のそれにも関わらず米国の立場に多大な影響を及ぼしているところにあります。

特に移民問題とイスラム原理主義組織への対処について、思想・人種に基づく一律の強制排除を公約に掲げた点などは、明らかに違法性を帯び、かつ非倫理的と見做されるものであって、およそ現代社会において到底受け入れられないだろう酷いものでした。仮に倫理面には目を瞑るとしても、そもそも実現可能性は無きに等しく、現実的ですらありません。不法入国者全員の強制送還やイスラム教徒の入国禁止など、どのような手段を持って可能とするのか、想像すら困難です。過去の宗教迫害よろしく、コーランを使って踏み絵のような事でもするのでしょうか。コーランを焼いた、と噂が流れるだけで暴動が起き、風刺絵を公表しただけで暗殺が呼びかけられる現実を前にしてのそのような措置を主張するとは、とても正気とは思えません。

にも関わらず、その正気ではない政策が、来年以降に米国の国策として実行される事が公約され、既定路線に乗りつつあるわけです。しかしその元は現時点では一般人の発言につき、公的立場にあれば当然に課されるべき抑制すらままならず、結果国際的な対立に発展し、ミクロな迫害・排斥を誘引し、各企業や政府、個人が火消しや自衛に追われる、という。暴動やテロの発生も当然に懸念されます。洒落になりません。

元々、Trump氏はその短慮かつ傲慢な性格で知られた人物です。何処までも自己中心的なその振る舞いに、他者への理解や調和、融和といったリベラルな要素は全くなく、おそらくは概念自体が存在しないのだろうと皮肉られてきました。控えめに言っても、自由主義の多民族国家の指導者にふさわしいとは思われない類いの精神を持ち、大統領選の有力候補になった現状を想像していた人はおそらく殆どいなかっただろう人物です。加えて元々政治的な素養は皆無、どころか知識人ですらありません。軍人でもない。富豪であり、有名人ではあるものの、それだけの、単なる一般人であって、法や政治、およそ公的な立場に求められる知識、見識、経験は一般人のそれと何ら変わりない素人です。諸々の偏見も甚だしく、その傲慢な性格と相俟って、明らかに誤った認識とそれに基づく行動を周囲の協力を得て修正もしくは抑制する事すら困難。その、素人相応の振る舞いを続けるだけの彼が、現時点で米国の次期大統領の最有力候補である、という事実が、今でも理解出来ない、という人は少なくないでしょう。

もっとも、そのような人物とその振る舞いは当然にごくありふれたものであり、それだけにその狭い見識や、衝動的で短慮な言動は一般人にも理解しやすく、従って一般に共感を得やすい面はあって、それによって他の候補と差別化され、支持を得ている面もあるのでしょう。しかしそのような人物は、ごく小さなコミュニティですら不和と衝突をもたらし、時に破壊してしまう事も珍しいものではありません。それがよりにもよって米国の最高意思決定機関に就き、同様の独善的かつ自己中心的で明らさまに排他的な性格に従ってその権限を振りかざし、如何に破滅的だろうと実行出来てしまう、という事がどのような帰結をもたらすのか。その想像するだけでも悲惨なというか、非現実的さに目眩がするのです。対外的には無論、米国内でも暴力的な衝突の頻発すら有り得るでしょう。

ただ、ここ最近の発言は明らかにタブーの域に踏み込んでいますから、流石に容認出来ないとして致命的に支持が離れる可能性もあるのかもしれません。しかし、Ted Cruzら他の共和党候補の状況を見るに、まだまだこれで終わるとは思えないのがまた。Jeb Bushは言うに及ばずですし。とはいえ候補者レースはまだまだ続きます。従ってTrumpの舌禍も、さらに過激の度合いを強めつつ続くでしょう。次は何か。お決まりの人種差別でしょうか。ロシアや中国への宣戦布告でしょうか。それとも核攻撃の脅迫あるいは行使でしょうか。気に入らないものは排除するのみ、という点で一貫するTrumpならば、きっと安易にそれを口にし、その時に実行が可能ならばそうしてしまうのでしょう。第三者としては、それが、彼が実際に権力を得た後の事、すなわち現実のものとなる事のないよう願うばかりです。もう手遅れかもしれませんが。さて。