12/25/2015

[biz] 個人向けから撤退する東芝、その行く先もまた暗く

2015年は、少なくとも東芝にとっては悪夢のような年になりました。春先に損失隠しが明るみに出て以来半年以上を過ぎ、年の瀬を迎えた今になっても一向に収拾の目処も立たない東芝。元々の原因にしろ、その後の往生際の悪い対応にしろ、全て自業自得で当然の成り行きという他無いわけですが、それでも、事業の整理についてはようやく一応当面の見通しが立ちつつあるようです。それが東芝自身や利害関係者にとって良い事なのかはともかく。

テレビはじめ家電関連は開発も含め拠点を全て分離し、PCも個人向けは撤退の運びと言われています。一言で言えば、コンシューマ向け製品からは総撤退し、重電等法人向けに特化する方向で落ち着いた、という感じでしょうか。まだ完全に決定というわけではないようですが、家電もPCも酷い赤字だし、既に成長の見込みはおろか回復を期待する事さえ不可能とあっては、客観的に見てほぼ不可避と言ってしまってもいいのかもしれません。

家電は中華系へ。PCは先立って分社化が決定済みの富士通、並びにVAIOとの合併へ向かうものと見られています。その辺の推測に対しては、東芝含め関係各社とも"決定した事実はない"等のお決まりの文句で事実上認めていますし、売却される事業には採算性はさておきそれなりの価値はあって価格次第で普通に売れるでしょうから、後は細かい条件のすり合わせだけで、もう既定路線に乗ったように見えます。個人的には、家電はともかくPCは、赤字事業が寄り集まってもあまり意味はないのではと思う所ではあるのですが、ともあれ、予想通りに事が運べば、既に撤退済みの携帯事業と併せ、コンシューマ向け事業から殆ど総撤退、という事になるわけです。ここ数年東芝はコンシューマ向け事業でリストラを繰り返していましたが、ようやくその完了ですね。結局、再生ではなく単なる切り捨てで終わってしまう様子なのは残念ですが、これも時代の流れによるものなのであって、惜しんでも仕方のない事なのでしょう。

何にせよ、それはもう終わったも同然の話です。今後の問題は、残された事業、すなわち社会インフラ等の電力関連部門とIT関連、あとフラッシュメモリ事業の先行きが色々と怪しい事でしょう。

電力の問題は、言わずと知れた原発事業。先行きが不透明というか、原発事故以降は新規需要が殆ど壊滅し、事実上保守専業になっており、これからも回復の目処は全く立たないわけです。先ごろ発覚したWestinghouseの損失隠しが象徴するように、既に買収時ののれん代の減損処理も不可避だろうと公然と言われる現状にあっては期待しろという方が無理があります。主要ベンダーを務めるもんじゅが引導を渡されつつあるのも相俟って、研究・開発部門や生産設備等は維持に膨大な経費がかかるにも関わらず売上は殆ど無きに等しく、単に損失を垂れ流すだけとあっては、むしろ普通ならどうやってリストラなり清算なりで切り離すか検討すべき状況にあるのはもはや明らかでしょう。むしろ家電やPCより余程深刻に見えるような。

一方のフラッシュメモリはというと、タブレットやスマホ等での需要が概ね頭打ちして市場価格が下落し、同時にここ数年の技術面の進歩の鈍化・停滞によって東芝自身の先行者としての技術・品質面での優位性が殆ど失われた事から、採算は急激に悪化していると言われます。どうあがいても全く採算が取れない、という程ではないでしょうけれども、スマホ等の携帯デバイスに代わる新しい出口は今の所見当たりません。HDDの置き換えを期したSSDも、それが実現する前にPC市場自体が縮小局面に入ってしまい、コスト面の弱みからHDDの置換としての普及には失敗し、元々HDDが利用出来ない携帯デバイスに採用が限定されてしまいました。この辺、シャープの液晶事業の採算が悪化しはじめた頃と似ているように思える点が認められるような。。。だからと言って必ずしも同じ末路を辿るとは言えませんが、その可能性は決して低くはないだろうとも思われるところ、少なくともこれがある限り安泰、と言えるような成長または安定したパフォーマンスを期待し得る事業ではもはやない事だけは間違いなさそうです。

他に残る事業は、お世辞にも順調とは言えないITサービス関連や法人向け電気設備・機器という事になるわけですが、それはいずれもどちらかと言うと競合他社の方が強い、というか東芝の方が新参だったりそもそも枯れた分野だったりして、東芝クラスの規模の企業を主力事業として支えるには現時点では不足と言わざるを得ないものなのであって。

勿論、事業規模の縮小を甘受し、不採算事業を切って余剰人員も廃し、採算を均衡させれば企業グループとしての継続自体は何ら問題なく達成出来るのでしょう。けれども、当然その過程で切り捨てる部分、殊に人員については、数割程度もリストラをするとなれば色々と社会的にも問題となって相応の非難も浴びるだろう事は必至です。今の求心力を失った経営陣に、只でさえ不信に満ちて多分に非協力的でもあるだろう幹部、社員に対し、それ程の措置を実行する事が果たして可能なのか、その辺りから大いに疑義が付いて然るべきところでしょう。

何にせよ、ここ数年の先送り、また不採算隠蔽のツケを払うのが先ですけれども。しかしやはり、ツケを払ったとしてもその後にまともな未来が待っているかも分からない、というのが他人事ながら悲惨ですね。かつてのNECや現在のシャープのように、ただ個々人の保身と責任逃れと切り捨てを繰り返し、組織が衰退するに任せた果てに残念な結末を迎えるのか、それとも過去の犯罪や不誠実な振る舞いを生んだ風土と決別し、組織としての革新を経て社会の信頼を得た上で新たな事業領域へと踏み出し、再起を掴む未来もあるのか、さてどうなることやら。もっとも、責任逃れと開き直り、また無反省に満ちた現状を見る限り、衰退もしくは破滅へとただ流されているようにしか見えないし、期待するだけ無駄なのかもしれない、とも思うわけなのですが、さて。

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