5/17/2015

[pol] 大阪市住民投票、地域の自治権放棄は同意され得るのか

大阪市廃止の是非を決する住民投票が実施されました。無論、部外者が賛否についてどうこう言う筋合いでは無いのですけれども、傍観する立場から思う所を少し。

本件は、政令指定都市である大阪市を廃止し、その代わりに大幅に権限を限定した5つの特別区を設置するというものです。縮減された権限並びにそれに伴う予算については、府が吸い上げる事になります。この特別区は東京版のそれに若干権限を拡大させたような感じですね。

特別区の権限は、東京版に比べれば裁量があるとは言え、政令指定都市のそれとは比較にならない程限定されています。そして、その他の行政機能を担う事になる府政は当然ながら大阪市以外のその他市町村との合議体であるので、特別区に対する諸々の政策は他区域代表の同意無しには決定出来なくなりますから、地域住民の決定権は大幅に縮減されざるを得ません。とりわけ、拒否権が事実上無くなる点は無視し難い変化と言えるでしょう。デメリットのある施策、例えば核廃棄物の処分場や軍事施設を設置するとかいう話が出た時に、各区域は単独で拒否する事が出来なくなってしまうのですね。

予算についても、区外地域と共有する形になります。本来共有というのは一方的なものではなく、区域内から出る分と入る分と双方向の流れが発生する筈なのですが、現時点で大阪市内とそれ以外との間で人口も経済規模も相当な格差がありますから、差し引きで事実上区域内から区外へ予算が流出する形にならざるを得ないでしょう。

というわけで、今回の大阪市廃止及び特別区への移行は、基本的に大阪市民にとっては予算を含めた各種裁量が縮減される、すなわち相当の不利益が発生するものと推測されるのですね。

対して、推進側が掲げるところのメリットであり目的でもある筈なところの府市二重行政の解消による余剰リソースの削減については、全くの零ではないものの、具体的に見てみると微妙な感じです。

まず議会関連のコストについては、大阪市議会が消滅し、各特別区の議会が設置されるわけですが、各区議会の定数次第としか言えませんから、今の所コストが削減されるとも増えるとも判じられません。人口比例で従来と同程度の議席数とするのであれば議員歳費については基本変化なしという事になりますが、一方議会の数は増えるので、その分コスト増と言えるかもしれません。ただ、権限と予算の縮減に伴って区議会の活動量は従来の市議会に比べて少ないものになるでしょうから、その辺との差引きになります。中立的に見れば、殆ど変化なしと仮定して良いかもしれません。また、基本的なインフラ等の住民への行政サービスの面については、原則変化なし。というか変化があってはまずいでしょうし、総じて、不明もしくは変化なしに留まるものと考えるべきかと。

従って、確実かつ有意な変化が期待し得るのは、各種政策のうち、特に府の権限で成される広域的な施策であって、かつ市が独立で同様のものを実施していた部分だけであろうという事になります。これについては確かに市が消滅し、府の権限に一本化される事によって余剰が解消されるでしょう。ただ、具体的に何が、というと、これがまたよくわからないのです。元々、各種の経済的な施策は殆どが市の裁量で実施されて来たらしく、そもそも府の権限で行ったケース自体があまり無いのだそうで。

そういう現状を踏まえて、これからは大阪市とそれ以外の区域に跨るような施策を推進する事で地域経済を発展させたい、とかいう話なら、確かにそういう施策を実施しやすくなる面はあるだろうし、分からないでもないんですが、それは今云々されている二重行政の解消によるコスト削減とは全く別の話なわけで。そもそも現状広域的な施策の実施が困難というわけでもなく、まして大阪市が決定的な障害になっているとも言えない以上、今現在において多大なコストを払ってまで大阪市を廃止する現実的な必要性を説く根拠にはなり得ないものと言わざるを得ないように思われるのです。

結局のところ、行政面でのコストやリソースの削減については、必ずしも期待出来るとは言えないように思われるのですね。一応、他にメリットが無いというわけでもなく、行政システムが若干整理される結果、大阪府全体で見れば行政運営の円滑化が期待出来る面はあるだろう筈なのですけれども、それは上記の通り特別区内住民の裁量すなわち権利の制限・放棄と引き換えになるのであって、言い換えれば犠牲を強いるものなわけです。

そして、決定権はその住民にあるのであって。となれば、通常その過半がみすみす不利益だけを被るような判断を進んで取るものとは考えられません。ですから、成立するとすれば、他ならぬその住民にそれ相応の補償的なメリットがもたらされる必要があるのですね。

で、その補償ですけれども。以前であれば、橋下氏以下の個人・組織的な信用と期待を担保にして空手形を切る事で、いかに怪しく錯覚めいていようとも、少なくとも精神的にはその補償が与えられる形に出来たわけなのですが、数々の失態を経て既にそのような信用は失われ、現実的な補償が必要な状況になっているように見えます。でも、それに代わる何かが提示されているわけではない、と来れば、自ずから結果は推して知るべし。実際、事前調査ではそういう結果になっていました。むしろ賛成派が多くて驚いた後、それはやはり既存の公務員や議会への反感がそれだけ強いという事なんだろうなと納得し、そんなアンチ感情だけで行政システムの解体に踏み切っていいのかと戦慄したりもしたのですが、それはともかく。

以上の様に見てみると、やはり住民に特段のメリットがなく、デメリットは決定的なまでに大きいように思われる本件、可決される見込みは非常に低いだろうと予想せざるを得ないところ、果たして結果はどうなるのか、見物を決め込ませて頂こうかと思う次第なのです。結局、どうなろうと当事者たる地域住民の問題なのですし、社会調査としては興味深いものなのですしね。 さてさて。

(追記)

そして結果は否決。やはり容易に通るものではありませんでした。骨折り損のくたびれ儲け、お疲れ様でした。同時に橋下維新は終了確定。

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