5/29/2015

[biz law] FIFA汚職立件に見る国際組織摘発の困難性

サッカーの国際組織、FIFAが大変な事になっていますね。長年、その高い経済的価値から、国際大会の開催地選定等を巡って各候補地やスポンサーから委員への贈収賄等の汚職疑惑が絶えなかった同組織ですけれども、その長年のツケを払う時が来た、という事でしょうか。

本件はいささか規模の大きな話につき、その全容を挙げて論じるのは止めておこうと思います。各所で解説はされていますしね。私が気になるのはただ一点。この種の国際組織が摘発される事自体がとても珍しい話なわけですが、どういった方法、建前でそれがなされたのかというところです。

本件の摘発に当たったのは、直接的にはスイスの当局です。FIFAの会議がスイスで開催されていて、嫌疑のかかっていた委員達がその出席のためスイスに集まっていたところ、そのホテルに踏み込んで一斉に逮捕したのだとか。管轄的には現地の担当なのですからこれは当然と言えますが、しかし本件の実体面での捜査を担当というか主導していたのは米FBIなのですね。

報道されたところによると、FBIから告発された容疑は主に贈収賄に絡んだ資金洗浄で、ニューヨーク等の金融機関を経由してなされたとの事。これに絡んで米国の各金融機関が主な捜査対象に含まれています、というかむしろそちらから発覚したと考えるべきなのでしょう。具体的には、南アフリカW杯の開催地決定選や中南米での国際大会、またそれらに関する放映権の獲得に関して、それらの金融機関を経由して隠蔽を図りつつ成された委員向けの贈収賄、特にその過程での資金洗浄が違法とされる、との事。ここで米国の金融機関が関与しているため、米国の捜査機関に管轄が生じた、という建前なのですね。で、FBIは贈収賄については特に言及しておらず、そちらはスイス当局が起訴時の罪状に挙げているようです。

米国側での主たる容疑は贈収賄ではなく資金洗浄、というところが本件の特徴的な点と言えるでしょうか。資金洗浄と贈収賄では、一般に後者の方が重い罪と見做されるものでしょう。けれども、FIFAは特定の国に属しない国際組織であり、従って贈収賄により侵害される公益の所在も特定の国に専属するわけではなく、従ってその管轄が必ずしも明確でないために、各国とも自国内での公益侵害を問う類の罪による検挙はし難い筈なのです。如何に世界の警察たる米国、その司法当局と言えど、その国に属する機関である以上、国内法の管轄内でなければ罪に問い得ない、というわけですね。対してFIFAの本部が立地し、直接的な管轄があるスイス当局にはより広範で一般的な管轄があるため、贈収賄による起訴が可能だと。逆にスイス当局にはおそらく資金洗浄についての管轄は無い筈なのですけれども。

といって、米国が贈収賄を全く問えない、というわけではないでしょう。ただ、FIFAは米国の組織ではないため収賄での検挙は困難な筈であり、直接罪に問えるのは贈賄側、それも米国籍のある者に限定されます。このやり方、すなわち贈賄側からの摘発だと、贈賄者の属する各国の司法当局が各々の管轄の被疑者をそれぞれ摘発する、という極めて煩雑な手続きによらなければならないのですね。それは流石に現実的でなく、やるとしても容疑が具体的に明らかになってからでなければ難しいでしょう。このため、今回は実現可能性や効率を重視し、米国と現地当局の二者のみで、贈収賄と資金洗浄とに容疑を分担する形で摘発したのだろう、と思われるわけです。それでも大変だったでしょうに、よく頑張りました。その努力は素直に賞賛したいと思います。
 
ただ、これで終わり、とはとても考えられません。こういう、その法的な摘発のされ難さが、国際組織を一種の安全地帯にし、それが汚職の土壌になっただろう事は殆ど疑いようの無いところで、組織の構造自体が原因である以上、その影響がごく一部に留まり、その他は清廉である等という事があり得よう筈もないのですから。本件にしても、やはり米国が主たる役割を担っているからか、摘発の対象は米国の金融機関を経由した部分が中心で、その他は必ずしも十分に捜査されたわけではないものと思われるのですし。実際、具体的容疑に挙げられた大会や逮捕された委員は中南米関連ばかりで、従来から汚職疑惑が掛かっているところのカタールやロシアはじめ候補地に関連したところが全く含まれていません。そもそも贈賄側や各スポンサーはじめ企業周りは殆ど手付かずですしね。VISAはじめ、スポンサーからの撤退検討を表明した企業も複数あるようですが、それが潔白の証明になるわけでなし。

そちらはそちらで、残りとかそういうような生易しい話ではなく、どれも国際的な企業だったり国家そのものだったり、罪に問うのも捜査するのも、管轄から色々と、本件にも増して大変な話になるだろう難物なわけです。むしろ中南米より余程摘発が困難で、かつ手を入れた後の影響が甚大だから今回は見送って、摘発が容易で影響も限定的な部分から手をつけた、と見るほうが自然な気がします。これからの案件であり、普通にW杯の開催が白紙になりかねないロシアとか中東とか、既に脅迫まがいの予防線を貼りまくってる様子から察するまでもなく普通に死人が山程出るでしょうしね。米国司法の手にすら余るだろう話に見えるのですが、各国が連携して一斉摘発、というのも中々想像しづらいところ、さてどうなるのやら。どうせFIFAの委員は会長以下殆ど全員黒なんだろうし、いっそ、本件から芋づるで一気に全員逮捕して組織は一端解散、位までしないとすっきりしないと思うんですが、当局は何処まで、どうやって頑張ってくれるんでしょう。あまり期待しないで、しかしその工夫には注目して待つとしましょうか。

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