8/19/2014

[law] ISISに拘束された日本人に思う、武力措置の非現実性

三つ巴の紛争の続くシリアで、湯川遥菜なる日本人が拘束された件、発覚の切掛となったYoutube掲載の動画を拝見したのですが。紛う方なき拷問真っ只中、ナイフも頻繁に突きつけられてまさに処刑直前といった雰囲気で引きました。かつてイラクで殺害された香田証生氏の映像とは異なり、その凶器を用いて実際の傷害に到る場面こそありませんが、異教徒邪教徒は皆殺し上等なISILの事ですし、ぶっちゃけこれ死んでますよね。であれば冥福を祈ります。

もっとも、実際に致命傷を受けるだとか、死亡に直結するような場面は映っていないし、本映像が流された意図は不明で不可解な事もありますから、生存の可能性が無いとは言えないわけですけれども。よくあるパターンは見せしめか取引位ですが、見せしめなら死亡が確認出来る所まで流しそうなものだし、取引材料にしたいのならその要求がありそうなものです。単に日本人や日本の位置づけについての知識が無いためにどうしていいのか分からず、とりあえず確認がてら流して反応を見てみたという事なのかもしれませんけど。確認という事なら、西側諸国のスパイの可能性も懸念したでしょうからその点も。はたまた、単に珍しいから興味本位で気紛れに流しただけな可能性もあるでしょうか。

ともあれ、死亡が確定していない以上、政府としては救助に努めなければならないということで、多分に徒労に終る可能性が高いと知りつつ従事する方々には誠にお疲れ様というわけです。当人の自業自得なのに。

ただ、この種の話が今回限りでは済みそうに無いのが何とも。本件自体は、流石に渡航が全面的に制限されているシリアでの事ですから突発的に起きた特殊ケースと言えるでしょうけれども、イラクやウクライナ、パレスチナに中央アフリカ諸国等、世界各地で市民を広く巻き込む形の紛争が頻発激化する一方の状況を鑑みるに、類似の拉致事件は今後も起こりうるものと思われます。頻度は分かりませんが、特に企業等の駐在者が多数居るイラクあたりではいつ起きても不思議ではないでしょう。

問題は、そういう拉致等が発生したとして、日本は如何に対応するのかという点です。以前であれば、強硬的な対応手段すなわち武装人員を派遣しての奪還保護等は建前上も事実上も不可能でしたから、専ら対話的な、多分に金銭による解放交渉によって対応して来たし、それ以外に手段が無いことは広く了知されていましたから特段の問題もなかったわけですが、言うまでもなく状況は変わりました。解釈改憲により確立された集団的自衛権の下、武装人員の派遣等が現実に可能にされつつあるわけです。ここ最近は世論の反発からか表立っての主張は控えられていますが、現政権は少なくとも紛争地域での邦人保護を明確に必要だとしているのですから、こういう拉致の場合は当然に対象になるべく立法が進められるでしょう。そして一度法制が整えば、それは任意ではなく義務という事になります。

しかるに、今回のような事件に対しては、自然とその種の強硬措置を取った場合の展開等を、近い将来には現実に起こりうる事象として想定せざるを得ないわけです。で、一頻り想像した結論としては、率直に言って無理だし無駄だろうと。結果として損害が激増する可能性があまりに高いのですね。まず、その種の救出作戦は米軍をはじめ各国の特殊部隊が頻繁に実行してきたところですが、熟練を極めた筈の彼らですら人的なものを含め損害が少なからず発生します。日本の自衛隊がそれより上手くやってのけられるとは到底考えられません。人を助ける為に人命を犠牲にするのでは本末転倒です。さらに、その種の実力行為に及んだ場合、当然に日本自体が敵対視される結果、米国同様に市民や企業に対する攻撃も発生するでしょう。しかし米国と違ってそれに対抗する有効な術を持たない以上、その結果は一方的なものになる可能性が非常に高くなります。また、一度リスクが及んだ地域では、経済活動も萎縮せざるを得なくなるでしょう。

相手が個人や小規模な集団で、反撃の可能性が無いなら別でしょうけれども。。。そうでなく、今回のISISのような一定以上の規模がある相手の場合、攻撃を加えるなら、当然その反動や長く続く後始末にも十全に対処出来なければならないわけですが、日本が米国同様の体制を備えるというのも現実的とは言えないでしょう。結局のところ、この種の問題に対しては、国家間の紛争に準じて、武力による解決は解決にならない、という単純な話に帰着するわけです。

その事は、先の大戦、また長く続いた戦後、今以て抱える多くの理不尽な問題を通じてよく思い知っている筈ではなかったのかと。事が致命的な帰結に到る可能性がある場合、それを無視して積極論を主張する者は、往々にして単に後先を考慮する事の出来ない愚か者に過ぎない、とは一般によく知られる経験則であるところ、首相はじめ現政権の面々は畢竟その種の人なのだろうと、諦観とともに結論付けざるを得ないのです。

そうこうしてる内に、米国人がISISに処刑されたとの報道が流れています。被害者はカメラマンのJames Foley、2012年に拉致されてから行方不明となっていて、解放を探る活動も続けられていた人なんだそうですが、最近の米国によるISISへの攻撃への報復として処刑されたとの事です。こちらは残念ながらUPされた動画により死亡確定。イラク戦争時等にも同様の事件は起きていましたし、今更米国がポリシーを変更する事は考えられないでしょうけれども、武力介入の避け難い帰結には違いありません。これからこの領域へと踏み込むだろう日本政府は、このような応報を招いた時、一体どうするのか。これまで通り、遺憾の意を表明するだけで実質何もせず、淡々と受け入れて済ませるつもりなのでしょうか。