5/06/2014

[note] 研究開発における捏造の必然性について

結局のところ、何処で線引きするか、その基準としての法や律するための仕組みが存在しない事が問題なんだろうと思うわけです。いや、STAP細胞の件をはじめとして近年相次ぐ研究開発成果の捏造の件ですけれども。

大々的に報道に乗っただけでも、理研のSTAP、対アルツハイマープロジェクトJ-ADNI、降圧剤ではノバルティスのディオバンに武田のブロプレス。ここ一年ばかり、研究開発の場における虚偽捏造の類の露見が多発している事は周知の通りです。どれもこれも範囲規模影響どれをとっても尋常ではない深刻なものですけれども、流石にこう沢山連発すると、個々の事例を逐一掘り下げているわけにもいきません。さりとて無視する事も出来ないし、困ったものです。というわけで、個人的にまとめというか、ある程度の整理をしてみようかと思い立った次第なのです。

前提として、対象たる職業研究者、またその予備段階にある博士過程の学生やポスドクの置かれている状況は、その立場、相互関係、捏造行為の法的性質の各面において、次のようなものであろうと思われます。

第1に、研究者の置かれた立場。その大半は期限付きであり、そのため常に、定期的かつ客観的に有効と言えるだけの成果を生み出す必要に迫られています。およそ年単位等の短期間で。それが出来なければ、ポジションの獲得も維持もままならず、ドロップアウトする他なくなってしまうのですね。さらに企業の委託研究等で外部から資金提供がある場合は、そのスポンサーの意向に沿った結果以外は許容されません。結果が予定されている研究など矛盾も甚だしく、もはや科学ですらないわけですけれども、しかし科学的な帰結がどうであれ、予定された結果が得られなければ、資金源を失い、従って職も失ってしまうのです。

第2に、高度に専門化、複雑化が進んだ科学技術の分野においては、そのチェックを行える人がそもそも非常に少なく、さらにとりわけ実験系の検証には非常に高額な設備、また時間を要するために、再現実験の類は殆ど行われません。さらにそれらは到底個人がフォローし得ない膨大な数量で発生し続けるため、個々の新発表の内容は、その殆どが事実上検証されません。故に、仮に作為や捏造がなされても、殆どが発覚しない状況にあります。そして、その事は当の研究者達にもよく認識されているところです。

第3に、違法性の有無。研究成果の捏造は、それ単体で即犯罪として罪に問われる違法行為では必ずしもありません。無論、その捏造された成果によって予算や職を獲得する等の利益を得れば詐取等になるわけですけれども、単に捏造しただけでは法的に犯罪は成立しないという事です。もちろん、およそ殆どの捏造は、何らかの利益の獲得を目的としているのが常ですから、証拠が揃い、いざ裁判となれば詐欺に該当しないとは言えないでしょうけれども、その法的構成や事実関係の複雑性、また証拠の検証の困難性によって、事実として滅多な事では罪に問われないわけです。

以上3点を纏めると、そのような、成果を出し続けなければ成り立たない環境にあって、しかしそれが叶わない、という避け難い破局に直面したとして、捏造を行ったとしても殆どの場合露見せず、しかも万が一露見しても犯罪として扱われる可能性も低いわけです。懸かっているものは多分に得難いものだろう自らのポジション、社会的地位、それに付随する収入、所属する組織の維持等、決定的な重みのあるものなのであって。これでは、捏造しろと言っているようなもの、その発生は必然と言うべきものでしょう。捏造や作為が誰も彼もに発覚した理研のケースが偶然とは到底考えられません。

だから、仕方が無い等と解釈すべき話では全くありません。そうではなく、研究開発の現状が、必然的に捏造を生み出す構造になってしまっている、その事は殆ど疑いようの無い事実だという事です。それを踏まえた上で、それらの不正行為は、研究活動そのものを根幹から崩壊させ、時にSTAPの件のように社会的にも多大な損害を及ぼし得る害悪であって許容し難いものである以上、実効力を伴って防止する仕組みが必要なのだろうと思われるわけです。

では、その防止策はどのようなものが可能なのか。第1の点、成果に対する要求については、これは研究活動も経済的活動の一種である以上、それは研究活動を行う理由そのものでもあると言えるでしょうから、軽減は可能かもしれませんが、およそ排除は困難でしょう。第2点、検証の欠落については、公的な検証を行う仕組みの導入によって対策が可能でしょう。具体的な例としては、検証・認証を行う公的組織を作り、個々の研究成果の公表にあたって、その検証の完了の有無、進行状況を公示する仕組みを導入する等、制度面の改革を以って一定の修正は可能でしょう。第3点、法制の欠落については、もちろん法規制を導入すれば良い話ではありますが、法技術的にはその対象の広範さ、複雑さ、新規性、特殊性の高さ等から、限定の方法等において相当に困難な面も多いように思われます。無論不可能ではなく、例えば第2点に関連して、仮に公的検証の公示制度が導入されたならば、その中で虚偽を罰する形等が考えられます。もっとも、必ずしも法制によるのではなく、それらの制度を学会等で個別自主的に導入する事も可能でしょう。資金を誰が出すのか、それによって公正さが損なわれないか、といった問題も生ずるのでしょうけれど。

ともあれ。実際のところ、実験系など、成果を得るのが困難で、かつ捏造が露見し辛く、多額の資金も動きがちな分野では、経験的には殆どの研究者が多かれ少なかれ必然的に捏造等の不正に手を染めているのが現状であろうと言って良いのでしょう。従って、極めて遺憾な事ながら、事は単に不正が露見した研究者を放逐一掃すれば良いという話ではないわけです。そんな事をすれば誰もいなくなってしまうのですから。問題は、その発生の構造的な予防なわけで、そのバランスの取れた制度が早く導入されるよう、願いたい次第なのです。勿論、限度はありますし、STAP細胞やノバルティスの件のように、絶対に越えてはいけない線を明らかに越えたケースについては、追放のち刑事罰、以外の処理が許されるべきではないでしょうし、そのような悪質なケースには別途の刑事罰を導入し、抑止を図るべきだろうと思われるわけですけれども。

何もかも、考えるだに困難で面倒な話です。長年見て見ぬふりで放置してきたツケが回ってきただけなのでしょうから、その是正が容易であろう筈もないし、仕方ないところなのでしょうけれど、全く以て気が滅入ります。というかそもそも可能なのかなと。いっそ一度全部潰して全員クビにしたのち、制度も倫理教育もきっちり整備した上で、若手で全て構築し直す改革、位しないとどうにもならないのでは、と思う位ですが、さて。

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