3/13/2014

[biz law] 賃金上昇が中小に波及・継続するとかいう寝言

春闘がほぼ終わり、大手企業で数年ぶりのベースアップ実施回答が相次いで流れました。所得の増加は経済成長に最も寄与する要素ですし、それ自体は結構な事でしょう。が、続いて流れた、中小下請け企業への波及を語る声には耳を疑いました。何を寝言を言っているのかと。

周知の通り、ここ数年、トヨタをはじめとする各大手メーカーは、コスト削減と称して、毎年数十%にも上るあまりにも苛烈な価格低下を調達先に課して来ました。この5年だけでも半額以下になったケースも珍しくないと言われるところ、それによって品質の低下や、下請け側の自衛策としての談合が相次いだ事も記憶に新しいところです。 そして、輸入に多くを依存する原材料費は、円安と途上国のインフレにより今以て高騰を続けています。

そして、来月からは消費税増税による消費減に伴い、生産量の急激な減少も予想されているところです。下請けの利益が増える見込みは何処にもありません。こんな状況で、何処に人件費の増加に回す余裕がある、等と考えられるのでしょうか。

余裕が生まれたのは、最上層の大手企業、それも自動車等の輸出に重きを置く極一部の企業に限られたものな事は元より明白でした。それもおそらくは継続しない類の。内需が大きく毀損する来月以降は、その傾向はさらに強まる事でしょう。そして、その勝ち組と言うべき大手企業をしても、売上自体は数年前と比較して増えるどころか減っているものが大半です。要するに、下請けを搾取してコストを削減し、それによって利益率が高まっただけの事であって、当然搾取されたその他企業群には増益があろう筈もありません。分かり切った事です。

目の前の、ごく一部の都合のいい話にかまけるのも大概にしろと思うのです。個々の企業や個人であれば、各々の求める所に従う自由があるのですから、それも許されるでしょう。けれども、全ての国民に対して義務を負う政府はじめ公の機関までもが、そのような対象も範囲も期間も、全てにおいて極めて偏った都合の良い部分のみを見て、他の大多数は存在しないかのように扱うなど、愚かしいにも程があると思うのです。公機関は本来より弱い立場にあるものが、それゆえに不当に窮する事のないよう衡平を図るために存在する筈です。真逆たる現状を前にして、絶望を禁じ得ません。

もっとも、その近視眼的かつ独善的な愚かしさは最初から分かっていた事ではあります。そもそも各機関が、公平かつ有意味、時宜を捉えた政策を行える類のものであったというのであれば、全てを無に帰すも同然というべき消費税の増税を行う筈もなかったでしょうから。今更どうにもなる筈もないのでしょう。全く以って遺憾です。